20年以上に及び、常に質の高い作品を提供してくれているイーストウッド監督は、御歳86歳を召されたにもかかわらず、いまだに創作意欲の衰えを知らないようで、その最新作「ハドソン川の奇跡」見てきました。今回もコケることなく、安心して見ていられました。満足な出来栄え。
我が国でも話題になった航空事故の映画化で、ハドソン川に着水した旅客機の両翼に立ち並んだ乗客の写真は今でも印象に残っている。その事故の様子を、単なるパニック映画や機長の英雄伝としなかったのが、成功の要因のようである。
物語は、事故後の国家安全運輸委員会での緻密な調査・分析によって、飛行機はハドソン川に着水せずとも、近隣の飛行場に緊急着陸できたのではないか、という追及を軸にしながら、そのとき何が起こっていたかが描かれていく。
果たして機長の判断ミスで乗客をむやみに危険に晒したのか、あるいは機長の判断が正しかったのか・・・、そこに焦点を当てることで緊張感が最後まで持続した。乗客・乗員全員奇跡の生還という心温まる快挙の裏で、こんな重っ苦しい事実があったとは知りませんでした。
原題が「Sully」で、サレンバーガー機長の愛称になっている。タイトルを事故の代名詞ともなった「ハドソン川の奇跡:Miracle on the Hudson」にせず、あえて「サリー」にしても何のことか分かるくらい、この呼び方はアメリカ人に浸透しているんでしょう。
雑誌スクリーン11月号によると、イーストウッド監督はそのサリー機長の役を、ブダペストで撮影中(おそらくもうすぐ公開の「インフェルノ」の撮影でしょう)のトム・ハンクスに直接電話で依頼したそうで、受けたトム・ハンクスも一発で快諾したとのこと。こんな記事を読むとなんかうれしくなる。
エンディングで、実際のサリー機長や事故当時の乗客・乗務員を登場させて、観客の心を揺さぶるのは、前作「アメリカン・スナイパー」と同じテクニックで、イーストウッド監督の演出に、またしてもハマってしまうのである。