これまでざっと半世紀、映画を見続けてきて、これまでに良かったと思う作品を挙げてください。と聞かれたら、この作品も忘れてはいけない1本になった。そんな「レヴェナント:蘇りし者」見てきました。
感想を述べるにあたって、なにから綴ろうかと考えれば考えるほど言いたいことがいっぱい浮かんでくる。鑑賞中も鑑賞後も、こんなにハマった作品は久しぶりである。広角レンズを多用した大自然の映像が良かった。坂本龍一の音楽が良かった。未開の西部で生きる男たちのストーリーが良かった。その俳優陣が良かった。
雑誌スクリーン5月号の解説によると、1823年アメリカ西部の未開拓地が舞台とのこと。ポーニー族やアリカラ族と呼ばれる原住民が登場し、会話の中にイエローストーン川が出てきた。あとからネットで調べてみると、舞台は現在のサウスダコタ州、ネブラスカ州、ワイオミング州といったアメリカ中央北部の辺りか。
1823年頃だから、大雑把にいえばアメリカ独立宣言から50年後、南北戦争の40年前、まだアメリカの領土は現在の半分くらいで、イギリス、フランス、スペインなど西欧の列強がひしめく、まだ混沌としている時代である。そんな背景を知っていたらもっと面白く鑑賞できたのかもしれない。(画像は当時のアメリカ領土勢力図。ウィキペディアから拝借)
とにかくいちばん感動したのは映像だ。厳しく美しい大自然、その中で生きる動物たちと、同じ目線で暮らす人間たち。撮影現場に出向き、「用意・・・スタート!」で、簡単に撮れるようなものではない、そんなまるでドキュメンタリーのような映像の積み重ねに感動した。
主人公グラスを演じるレオナルド・ディカプリオはこれまでの作品のような、機関銃のように繰り出すしゃべくりは影を潜めて寡黙だった。それに英語より原住民の言葉のほうが多いようだった。グリズリー(灰色熊)に襲われ瀕死の重傷を負ってからは、ほとんど唸ってばかりだった。唸って獲ったアカデミー賞だな。
そのグリズリーが襲うシーンが凄かった。闘いの一部始終がワンカットで撮影されていた。と思う。スクリーンに釘付けになってよく覚えていないがカット割りは無かったと思う。あの熊はCGでも無ければ着ぐるみでもなく、どう見てもホンモノだった。(どうやらCGらしいが・・・)襲われていたのも確かにディカプリオだった。それをワンカットで見せるんだから驚いた。
このシーンをはじめ、原住民との戦闘シーンではその場にいるような臨場感を味わったし、バッファローの群れを狼が襲うシーン、主人公が原住民に追われ馬もろとも断崖から落ちるシーン、銃声の響きに誘発されて起こる雪崩など、どうやって撮影したんだろうという映像にワクワクさせられた。撮影監督のエマニュエル・ルベツキは、前作「バードマン・・・」といい、前々作「ゼロ・グラビティ」といい、驚かされるばかりである。
監督(脚本も)のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが語りかける深遠で、詩的かつ哲学的な部分も述べたいが、うまく表現できない。息子を殺された男の単純な復讐劇だけであれば、こんなに余韻が残ることもないはずで、これはまた別の機会に。
私の場合、公開中の数ある映画の中から1本を選ぶのは、その作品が面白いだろうと期待するからである。そして期待以上の作品に出会ったときの心地よさは格別で、映画を見続けてきて良かったと、あらためて思うのである。本作は私にとってそんな作品になりました。