とある建物の一室。一人でひたすらドラムを練習する若者。壮年の男が入ってくる。帽子を取るとスキンヘッドである。その人物に驚いて思わず叩くのを止める若者。音楽院に入学したばかりの若者と音楽教授の、これからの出来事を暗示するような緊迫した出会いから「セッション」は始まった。
教授が去ったあと、その建物から夜の街に出た若者。アップテンポのジャズが流れ出す。・・・この最初の5分ほどでスクリーンに引き込まれてしまった。全編を通して鳴り響いた音楽に圧倒された。いやー面白かった。
鑑賞後ずっと、J・K・シモンズ演ずるフレッチャー教授の、音楽の先生としての教育方法を反芻している。あのやり方は、ただただ生徒の音楽性を伸ばすための愛の鞭(原題の whiplashはこの鞭の意)だったのか・・・、いやいや、やっぱり違う。意地悪、口悪、陰険・・・そんな言葉しか出てこない。音楽に対する情熱は認めるが、あの教育方法はいけない。
迫真の憎まれ役を演じてアカデミー賞助演男優賞かぁ。それで思い出した。「カッコーの巣の上で」(1975年)で、ジャック・ニコルソンをイジメぬいた看護婦長ルイーズ・フレッチャーも、悪役で主演女優賞だったんだ。女優の名前が奇しくもフレッチャーで同じというのはどうも偶然とは思えない。
残念だったのが、主人公を演じたマイルズ・テラーがイマイチだった。相当に練習を積んだんでしょうが、ドラムを叩く仕草がどうもサマになっていないような気がした。もっとも私が持っているドラマーのイメージは、ジャズではなくロック系の人たちなんですが・・・。
終盤の大詰めは、フレッチャー教授の陰険さが最高潮に達して盛り上がった。原題のwhiplashはフレッチャー教授率いる楽団が練習を繰り返す曲名でもあり、この曲がラストの伏線になっている。
この作品の宣伝チラシや公式HPには、各界の著名人がコメントを寄せている。以下その抜粋。
たしかにラストは大盛り上がりのクライマックスではあった。けれど最後の最後のシーンで、主人公と教授が分かり合ったような雰囲気で終わったように見えた。これはいけない。このふたりは絶対に分かり合うはずがない。と、思いたい。
J・K・シモンズはこれまでまったく印象の無い俳優だった。トビー・マグワイヤが演じた「スパイダーマン」で主人公がカメラ担当としてアルバイトしていた新聞社の編集長を演っていたんだ。へーえ。気がつかなかった。
もうひとつ。主人公の父親役で出ていた俳優がどこかで見た顔だが思い出せなかった。後で調べたら「エイリアン2」でリプリーと子供のニュートのお腹にエイリアンを宿らせて、地球に持って帰ろうと企んだバーグという、いけ好かない役を演っていたポール・ラーザーでした。ああ懐かしい、まだ頑張ってましたか。こういう発見も映画の楽しみのひとつである。