シヌマDEシネマ/ハリー東森

2013年03月

10年前、いや5年前でも興味はなかったはずだけれど、この4月から夫婦揃って年金生活者となる身にはそろそろ切実になってくるのでしょう。そんな作品「愛、アムール」見てきました。

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劇中で病名は明らかにされないが、おそらく頸動脈狭窄症から脳梗塞を患い半身不随になった妻と、献身的に介護する夫の物語。舞台はパリ。冒頭のピアノコンサートのシーンを除いて、カメラは夫婦の住まうアパルトマンを一歩も出ない。妻の発症から結末までの老老介護の様子が粛々と描かれる。その結末はなんとも切ない。

ジリジリするような長~いワンカット。BGMは一切無し。時々しか映さない人物のアップ。ミヒャエル・ハネケ監督の作品は「白いリボン」で経験済みだが、アクション映画に親しみ過ぎた私には、なんともテンポがゆったりと流れる。これを文学的というんでしょう。低俗な私にはなんとも高尚に映る。

映画とは楽しむためにあるものだと確信している私に、将来起こり得るかもしれない現実を突きつける。映画は時として残酷になる。これが夫婦愛のカタチだとしたら、切な過ぎる。いや、これが愛なんでしょう。そうだ “これも愛、たぶん愛、きっと愛” と、松坂慶子も唄っていた。・・・やっぱり私は低俗だ。

なぜか20歳のときに、職場の先輩女性と見に行った「ある愛の詩」(1970年)を思い出した。この中の名セリフ「愛とは決して後悔しないこと」これを思い出したのだ。

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老いた夫を演じるのが、シャバダバダ、ダバダバダの「男と女」(1966年)のジャン・ルイ・トランティニアン。当時36歳のシャバダバダも47年経つとこうなるんだ。つくづく歳はとりたくないねぇ。

ということで、人生の終末は是非ピンピンコロリでと願望する ハリー東森 でした。

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昨年の5月以来、久しぶりに志の輔を聴いてきました。この数年、関西の高座はほとんど欠かさず足を運んでいる。もうこうなると志の輔の “追っかけ” だわな。

次の関西での高座は5月。もうすぐリニューアルオープンする大阪フェスティバルホールで、立川談春との落語会があるそうだ。これも行きたい。チケットが取れるかどうか。

“時を、場所を越えて、人間の生命はどこかでつながっていることを描く 壮大な物語
いま、<人生の謎>が解けようとしている”
 そんな宣伝文句の「クラウド アトラス」見てきました。

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19世紀から24世紀に渡る、6つのそれぞれ独立したストーリーが展開するが、いわゆるオムニバス映画のようにひとつずつ順番には描かれない。6つの話を同じ俳優たちが演じ分けながら同時進行する。これまでにこのような手法の映画は記憶にないし、実験的でアイデアとしてもおもしろい。

アイデアとしてはおもしろいが、残念ながら成功とまではいかなかった。宣伝文句にあるような、時や場所を越えて人間がつながっている・・・、に大いに期待したが、個々のストーリーからは納得できる関連性は伝わってこなかった。

大体が宣伝文句がオーバー過ぎる。なにもこの映画で<人生の謎>が本当に解けるとは誰も思わないだろうが、なんでこんな大上段に構えるのだろう。(米国でのキャッチコピーは“Everything is connected”で、こっちのほうがまだ少し遠慮気味だ)

これで客を呼べるかもしれないが、大きな期待を抱きすぎた客の鑑賞後のガッカリ感。この落差がいちばん大きいのがわからないのかねぇ。昨年公開の「プロメテウス」の反省はないんかい。

なんで配給会社の宣伝担当は、自らハードルを高くするのだろう。正味でいきなさい。アホちゃうか。これでこの作品は興行的に失敗だ。“「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟監督、トム・ハンクス、ハリー・ベリー主演、時代を超えた壮大な物語” これで客は呼べるのだ。これでええやんか。あとはクチコミですよ。

それぞれの話はまったく異なる味わいでおもしろく、トム・ハンクスはやっぱりうまく、3時間近い上映時間も長く感じさせなかったが、少々欲張りすぎて個々の話が消化不良になってしまった。悪くはなかったが響いてこなかった。

強いて上げれば、6つのストーリーの唐突な切り替えには最初戸惑ったものの違和感はなかったし、それぞれがクライマックスに突き進んでいくラストはそこそこ見せてくれた。意欲的であるだけに残念な作品である。

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あと興味深かったのは、出演者がそれぞれのストーリーの中で演じ分ける役が変化に富んでいて、変装大会の役者当てクイズのようだった。例えばこの女性、ハリー・ベリーとはどう見ても気づかない。

エンドロールでそれぞれの俳優がどんな役をこなしていたかをプレイバックしていて、マジックの種明かしを見たようで、いちばんおもしろかった。エンドロールがいちばんおもしろかった・・・では、いかんわな。

ということで、この作品の鑑賞後も、やっぱり <人生の謎> は解けなかった ハリー東森 でした。

この3月の初旬に高校時代の同級生Kちゃんとラスベガスに行くはずだった。昨年末くらいに一緒に旅行に行こうと話していて、酒もたばこも好きなKちゃんとなら、そういうことに寛容なラスベガスに限ると、関空発着5泊7日のHIS格安ツアーを早くから予約していた。

ところがである。世の中予定通りには進まない。私のほうの諸般の都合でキャンセルとなってしまった。あとに残ったのは、Kちゃんが新たに買ってしまったスーツケース。それと関空発ということで買ってしまった名古屋-難波間の近鉄特急のチケット。

ラスベガスにはそのうち行こう。スーツケースはそのとき使える。私が変わりにネットで登録してやったESTA(電子渡航認証システム)もムダにはならないでしょう。問題は近鉄特急のチケットだ。で、そのチケットを使うべくKちゃんの大阪見物が実現した。

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大阪見物となれば、いちばん大阪らしいゴテゴテの道頓堀から千日前、それとやっぱり吉本新喜劇でしょう。で昨日、Kちゃんをなんばグランド花月に招待した。つまり、ラスベガス行きがなんば花月行きになってしまった。

久しぶりの漫才と吉本新喜劇は、落語とはまたちがっておもろかった。

ちなみにKちゃんとは生年月日がまったく一緒で、一昨日の3月17日に同時に62歳となった。さらにちなみに、家内は2つ年下のこれも3月17日生まれで、今年還暦を迎えた。私との結婚後もしばらくOLをしていたので、厚生年金が僅かながら支給開始となる。
年金事務所に手続きに行かねば・・・。

先月開催されたアカデミー賞授賞式に合わせて、WOWOWではそれにちなんだ数々の番組を放映していた。その中で2月22日に放送されたドキュメンタリー「アカデミーを救った“消えない”映画フィルム」は興味深かった。その内容を、感想も交えながら紹介したい。

コンピュータのハード・ソフトの進化は映画業界をも席巻し、撮影用カメラなどのコストパフォーマンスの向上もあって、今や撮影・編集・上映に至るまでが一貫してデジタル化されつつあるそうだ。

富士フィルムが撮影用・上映用フィルムの製造を中止するというニュースも記憶に新しいし、そういえば映画館での上映方式もほとんどが「デジタル」になってきている。ここまでは映画業界に限らず、世の中の流れとして当然なのでしょう。

ところがである。ここにデジタル化の落とし穴があるそうだ。従来のフィルムに比べて、映像の保存に相当の費用がかかるらしい。その理由をまとめると・・・。

(1) コンピュータ、特に膨大な映像データを保存する
   ハードディスクの障害に備え、万全なバックアップ
   が必要になる。
(2) 映像のデジタル化規格が2年ごとに変わり、前規格
   との互換性がないため、その都度データの移し変え
   が必要になる。
  (筆者註:2年ごとに変わるような仕様は「規格」では
   ないでしょ。これはハード・ソフト会社の儲けるため
   の陰謀である)
(3) そのため従来のフィルムに取って代わる長期保存
   可能な媒体が無い。

ここまでが番組の前半。ここからがこの番組の本題になる。

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この問題に目をつけたのが富士フィルムで、デジタル映像をフィルムに移して保存することを考えた。それも白黒フィルムというのがおもしろい。ETERNA-RDSという名称でこれを商品化し、昨年のアカデミー科学技術賞を獲得している。

開発過程から商品化に至る部分は、私の説明より実際の番組から見るほうが分かりやすい。




YouTube: アカデミーを救った"消えない"映画フィルム

デジタルの弱点を克服してのフィルムの復活。なんかうれしくなる。ついつい富士フィルムホールディングスの株、買うてもうた。

さて、デジタル化の波は、なにも映画業界だけでなく家庭にも及んでいるわけで、デジカメで撮った画像や映像はハードディスクやDVDに保存してあるから大丈夫だと安心してはいられない。写真は色あせても見られるけれど、デジタルは 0 か 1 の世界だから・・・肝に銘じなければならない。

このところアニメばっかり撮っていたようで、実写映画の監督としては「キャスト・アウェイ」以来12年ぶりだそうなロバート・ゼメキスとなると、これは見ないといけない。で、「フライト」見てきました。

大惨事になってもおかしくない飛行中のトラブルに際し、冷静かつ巧みな操縦で機体を不時着させ、多くの人命を救ったパイロット。しかしその血液中からはアルコールが検出されて・・・。パイロットは英雄なのか犯罪者なのか・・・。というのが予告編で知り得た情報。

パニック映画の延長ドラマかと思いきや、そこは「フォレスト・ガンプ」のロバート・ゼメキス。そんな単純には描かない。おいおい話をそっちのほうに持っていくのかぁ?と、観客を(少なくとも私を)戸惑わせながら、最後まで引っ張っていく。デンゼル・ワシントンはやっぱりうまい。

冒頭からパイロットってこんなんでいいんかい?と、飛行機に乗るのが恐くなるくらい、デンゼル・ワシントンの堕落ぶりを少しずつ、少しずつ、観客に提示していく。そのパイロットの不祥事を隠蔽しようとする業界にも驚かされる。やっぱり飛行機に乗るのが恐くなる。航空業界からクレームがつくのではないかと心配してしまう。

入院しているデンゼル・ワシントンのところへ、友人のジョン・グッドマンが見舞いに来る。えらく陽気でけったいな男やなぁと思っていると、最後のほうでまた登場してくる。なーるほどこういうヤツだったんだというオチがなんともおもしろくて、やっぱり恐い。

ジョン・グッドマン。この人、最近では「人生の特等席」「アルゴ」「アーティスト」「ものすごくうるさくて・・・」と、けっこう出演しており、どの作品も個性的な脇役として光っている。そのほか、ドン・チードル、ブルース・グリーンウッドなど、脇を固めた役者も良かった。

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薬物中毒で爛れた暮らしを演じる女優がどこかで見たことがあるが思い出せず、あとで確認したら「シャーロック・ホームズ」でワトソン・ジュード・ロウの奥さんになったケリー・ライリーだった。シャーロックの清楚な女性と、フライトのちょっと尻軽風な女性を演じ分けて、やっぱり役者やねぇ。

ということで、飛行機に乗るときはパイロットを選びたくなってしまった ハリー・東森 でした。

「イングロリアス・バスターズ」で楽しませてくれたタランティーノであれば、アカデミー賞の脚本賞・助演男優賞を獲得していなくても行くつもりでいた「ジャンゴ 繋がれざる者」見てきました。いやぁーおもしろかった。今年映画館での10本目になるが、今のところこれがベスト。

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まずレオナルド・ディカプリオ。これまで見た中ではいちばん良かった。アメリカ南部の大農園主の二代目だったか三代目かのぼんぼん役で出てくるんだけれど、これがばっちりハマッていた。前作「J・エドガー」なんかよりよっぽどの名演。というよりこれが“地”なんでしょうか。ディカプリオ=やんちゃなぼんぼん。これ正解。

時代は南北戦争の2年前。奴隷というものがまだ制度として存在する時代。ドイツから渡ってきた歯医者でその実体は賞金稼ぎの男と、お尋ね者の顔を知っているというだけで奴隷商人から解放してもらった黒人。この奇妙なふたり旅という設定がおもしろい。

こうなると当たり前のように役者はクリストフ・ヴァルツとジェイミー・フォックスになるわな。少なくともクリストフ・ヴァルツのために作られた役という感じがする。アカデミー賞助演男優賞も納得の演技で、主演のほうが影が薄かった。

農園主ディカプリオの執事役で登場するサミュエル・L・ジャクソンも印象的だった。黒人奴隷でありながら、やんちゃなぼんぼんを操ってこの屋敷を牛耳っているのは実はオレなんだ、というクセのある老人を演じて「アベンジャーズ」とはまたぜんぜん違うこと。役者やねぇ。

タランティーノの作品は一貫して単純明快。映画はおもしろければいいのだというその姿勢がいい。「キル・ビル VOL.2」のようにスベる時もあるし、アクションシーンでは血潮は吹っ飛び肉片が炸裂するのはチトやりすぎの感はあるけれど、それもサービス精神と受け取りましょう。

主人公ジェイミー・フォックスが自由の身となって解き放たれるシーンで流れる音楽は、私もLPを持っているジム・クロウチの「I got a name」だった。これには不覚にも思わず涙ぐんでしまった。映像にぴったりシンクロしたその音楽が、めっちゃくっちゃ懐かしかったからである。




YouTube: Django Unchained OST - Track 10 - JIM CROCE - I GOT A NAME

ロングランヒットで現在も公開中の「ライフ・オブ・パイ」に登場するトラは、ほとんどがCGで描かれているそうだ。本物のトラよりもトラらしく生き生きとしていて、どんどん進化する映像化技術に驚かされる。

この20年、30年、コンピュータによる映像化の恩恵で、これまでにない映画が見られることはうれしい。うれしい反面、映画ファンとしてこの先どうなるのかとチョット心配になる。

先日もWOWOWで「ヒューゴの不思議な発明」を放映していた。この作品の冒頭、舞台となるパリの夜景を凱旋門からエッフェル塔へと俯瞰で見せ、カメラはそのままワンショットで上空からリヨン駅の雑踏の中を駆け抜けるシーンがものすごく印象に残っていた。

そこのところを目を凝らして見入ったのだが、当然ながら丸ごとCGであった。もうこうなるとアニメーションではないか。なんか淋しい。

小欄でも以前同じことを述べていて繰り返しになるが、「十戒」(1956年)の海が二つに割れるシーンや「ベン・ハー」(1959年)の戦車レースの舞台となる競技場などは、どうやって撮ったんだろう、というワクワク感が溢れている。半世紀前の作品である。

今の映画は、どんなビックリする映像を見せられても “どうせCGでしょ” で終わりである。なんか淋しい。

そのうち大道具や小道具といったスタジオセットからロケまでも必要なくなって、出演する俳優までもCGになったりして・・・。トラができれば人間もできるでしょう。
なんか淋しい。

東宝シネマズでは、先週末からアカデミー賞作品賞受賞記念凱旋上映と銘打って、「アルゴ」の再公開という気の利いたことをしてくれている。昨年秋の公開時には、大方のあらすじを語ってしまうというアホな予告編に惑わされて鑑賞していなかった私としては、「ジャンゴ」も「フライト」も見たいが、これは優先して行きたくなる。で、早々に見てきました。

さすがに作品賞を獲るだけあって、おもしろい映画でした。もし昨年のロードショーで鑑賞していたら、小欄の「2012年 劇場鑑賞映画総括」では第5位の「ダークナイト ライジング」の次に入れたでしょう。

ベン・アフレックはイラン革命下のアメリカ人救出劇という衝撃的な題材のわりに大袈裟に見せるでもなく、どちらかといえば押さえた演出なのが意外だった。前監督作「ザ・タウン」も悪くなかったし、この人は俳優より監督・脚本業のほうが合っているかもしれない。

このお話が1979年から1980年にかけてであり、パーレビ国王やらホメイニは当然ながら、ジョン・ウェインが亡くなって半年とか、ソ連のアフガン侵攻などが映画の中でも出てくるそんな時代。ベン・アフレック演じる主人公がニセの映画製作を思いつくのは、息子がテレビで見ていた映画「最後の猿の惑星」(1973年)というのもおもしろい。

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当時は・・・私もそうだったが・・・男でも長髪やベルボトムのジーンズが多かったり、楕円形の大きな縁のメガネだったり、飛行機内でもタバコが吸えたり、携帯電話なんぞは当然無かったり・・・そんな世相が作品の中にも出てきて、なんとも懐かしかった。

ということで、1998年にはマット・デイモンと共に「グッド・ウィル・ハンティング」でアカデミー賞脚本賞を獲ってからは、マット・デイモンにだいぶ水をあけられていたベン・アフレック。久々に彼の晴れ晴れとした授賞式でのスピーチが聞けました。今後に期待。

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